2019/06/24 電力 未完の自由化  日本経済新聞

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新電力ニュース

【新電力ニュース】2019/06/24 電力 未完の自由化  日本経済新聞
東日本大震災から8年がすぎ、日本は電力の供給が途絶える危機からは脱した。しかし再生可能エネルギーはコストや安定供給に課題があり、火力発電に頼る現状は温暖化対策に逆行する。政府は新たに設ける電力取引の市場を通じ、競争による値下げと環境への責任を促す改革を目指す。未完の「電力自由化」は前に進むか。

「新電力より安くしますよ」。東京電力ホールディングス傘下の新電力、テプコカスタマーサービス(TCS、東京・港)が顧客を奪いにかかっている。TCSは法人向けで他の新電力よりも安い価格を提示して大口顧客を獲得。2月には新電力の電力販売量で、小売りが全面自由化されてから初めて首位に立った。

巨大な設備が負担となるはずの大手が値下げ攻勢をかけ、設備を持たず身軽な新規参入組が守勢に回る。こんなことが起きるのは、発電コストが安い電力は大手しか持っていないためだ。
電気はエネルギー源が安定し、昼夜を問わず継続して稼働できる設備ほど安くつくることができる。今、安価なのは規模の大きい水力や石炭火力の発電所でつくる電気だ。この設備を持つ大手の系列は得意先に安価な電力を提供できる。

一方の新規参入組は自社設備を持たなければ、卸売市場から電気を調達する。市場にある電気は大手で余った分。液化天然ガス(LNG)火力などでややコストが高い。

消費者にとっても矛盾がある。今の暮らしには照明や冷蔵庫などに「どうしても必要な電気」がある。仮に新規参入の事業者と契約すると、ここにコストの高い電気がまわる。

経済産業省は「大手電力が持つ安い電気を開放しないと、公平な競争環境にならない」(幹部)とみる。そこで新設されるのが小売業者が安価な電力を調達できる「ベースロード市場」だ。
この市場は大手に水力や原子力などでつくる電気を出してもらう。一定量を提供しなければ、独占禁止法違反とみなされる恐れがある。

大手は不満を募らせる。安価な電力を市場に出せば新電力の調達価格が下がり「顧客が流れてしまう」(東北電力幹部)。東北電は宮城県の女川原発2号機などを再稼働しても、電気を拠出すればライバルを利することになる。

電力の自由化は新規参入組を増やして競争を促し、電力コストを下げることが目的だ。東京都に本社を置くある新電力の幹部は「大手電力系のライバルに顧客が流れている」と危機感を募らす。顧客が大手の系列に戻り新規参入組が淘汰されれば、価格競争のおきにくい寡占市場に戻りかねない。
一方で北陸電力の幹部は「コスト競争力のある水力発電を増強し、ベースロード市場に振り向ける」と話し、市場を活用した収益の最大化に目を向け始めた。「安価な電力」の供給に向け、市場を通じた競争の促進が改めて求められている。

「価格が高すぎる」。新電力の大手であるエネットの竹広尚之・経営企画部長は憤る。「化石燃料ではない」ことを価値として取引する証書のことだ。

政府は再生可能エネルギーを主力電源に育てる方針を掲げる。達成に向け、新電力を含む小売事業者は販売する電力の一定割合を化石燃料を使わない電源にすることが義務になる。全体で20年度に25%程度を目指す。

太陽光や風力といった再生エネの設備を持たない小売事業者は多い。過去の実績に基づく目標は事業者によって異なるが、多くの事業者は再生エネが余っている企業から「価値」を買い、達成を目指す。

新規参入組は価値を取引する証書の価格に不満を募らせる。経済産業省の資料によると、小売事業者は販売電力量1キロワット時あたり0.1円強の証書購入コストがかかる。一般家庭にあてはめると年約300円のコスト増だ。

証書は「非化石価値取引市場」で取引し、価格は購入する小売事業者の入札で決まる。試算は現状の最も低い価格が前提だ。30年度には非化石比率を44%にする目標が法律で定められ、証書の価値は上がりやすい。エネットの竹広氏は「利益が吹き飛ぶ」と警戒する。

今の証書は電力会社が固定価格買い取り制度(FIT)で買い取る再生エネが対象だ。だが、今後は原子力や大型水力などでも証書が発行される予定がある。仮に大手電力が証書代を原資に電気代を下げれば、新電力が競争で不利になる。

再生エネを巡っては、さらに大手電力が有利になりかねない新制度がある。発電能力に価値を認めて取引をする「容量市場」が来年、たちあがることだ。

太陽光や風力などは天候によって出力がかわる。電気を安定して供給するためには、再生エネが足りないときに電気を供給するだけの火力発電などがいる。再生エネが普及するほど大手電力は稼働率の低い設備を抱えるため、発電能力に価格を付けて容量市場で売る。

小売事業者は購入に回る仕組みで、普段は使わない設備のお金を負担することになる。新電力であるLooop(ループ、東京・台東)電力事業本部調達部の小川朋之部長は「再生エネの普及に役立つ蓄電池などにお金を使うべきだ」と話す。

容量市場を導入した欧米では「二酸化炭素(CO2)排出量が多かったり、老朽化したりした施設の温存につながっている可能性がある」(原子力資料情報室の松久保肇事務局長)。各国がまだ手探りで進めている仕組みとも言える。

再生エネの普及は世界的な流れだ。だが、消費者に安価な電気を届けるという自由化の流れを途切らせないために、負担のしわ寄せが起きない制度設計が必要になる。

出典:日本経済新聞