2020/08/20 再エネ主力化へ制度再構築 電源構成最適化への課題  高村ゆかり 東京大学教授

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【新電力ニュース】2020/08/20 再エネ主力化へ制度再構築 電源構成最適化への課題  高村ゆかり 東京大学教授
7月に入り、エネルギー政策が大きく動き出した。梶山弘志経済産業相は脱炭素社会の実現を目指し、エネルギー基本計画に定める「非効率石炭火力のフェードアウト」や「再生可能エネルギーの主力電源化」のためのより実効性のある新たな仕組みの検討を始めると表明した。また小泉進次郎環境相は、石炭火力輸出への公的支援の要件の厳格化を発表した。

政策転換の軸は脱炭素化と再エネ主力電源化だ。再エネ型経済社会をいかに創造し、主力電源化を早期に達成するか。その課題と対策を議論する経産省の審議会では、(1)産業の競争力強化(2)再エネ型経済社会を支えるインフラの構築(3)地域社会との共生――の3つの面で検討項目が示された。

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2018年度には再エネの電源構成割合は約17%となった。大規模水力を除く導入量は9.3%で、再エネ買い取り制度(FIT)が始まった12年度と比べ3倍以上となった。世界第3位の水準に導入が進んだ太陽光の発電コストは他国よりなお高いものの、10~19年で64%低減した。

再エネの導入がもたらす新たな価値も見えるようになった。18年度のエネルギー自給率は11.8%となり、7年ぶりに自給率が10%を超えた。18年度の温暖化ガス排出量は13年度に比べ12%減少し、国連に報告している1990年度以降最少となった。雇用創出効果も大きく、国際再生可能エネルギー機関によると、18年には大規模水力を除いても日本で約26.7万人の雇用を創出した。需給一体型のゼロエネルギー住宅・建築物や地域で活用する電源は災害時などのレジリエンス(耐性)強化に貢献する。

再エネ導入を支援する買い取り制度の賦課金は、20年度に約2.4兆円で、私たち電気の需要家が1キロワット時あたり2.98円を支払っている。いかに賦課金を抑制しつつ、再エネ主力電源化を進めるかが課題だ。

買い取り制度は、国が一定期間の買い取りを保証し民間投資を促すことで、再エネ導入を拡大する仕組みだ。再エネのコスト低減には、投資リスクを低減し、投資回収の予見可能性を高める民間の投資環境の整備が一層重要になる。

そのための第1の施策は再エネの野心的な導入目標を国が明確に示すことだ。7月には経済同友会が、30年の電源構成に占める再エネの割合を40%に引き上げるべきだと提言した。また同月発足した洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会では、梶山経産相が「当面10年間は年100万キロワット、40年にかけては3千万キロワットを超える導入」という方向性を示した。野心的な目標を示すとともに、その目標実現に向けて全国規模の送電網の広域運用の加速、導入目標と整合的な系統増強・整備のマスタープラン(基本計画)の作成も急ぐ必要がある。

加えて、電力システムに関わる現行の制度やルールが再エネ主力電源化、脱炭素化という政策目標と整合的かを改めて見直すことが必要だ。これまで先着優先ルールの下で、先に送電線に接続した電源が優先されてきた。再エネを含む新規の電源は、混雑している送電線には増強を待たないと接続できず、接続に数年もの長い時間がかかることもあり、費用負担もかさんだ。

再エネ主力電源化のための措置として、混雑していない時には新しい発電設備の接続・送電ができる「ノンファーム型接続」を21年中に全国に展開する。送電線の混雑時には、再エネが優先して送電できるようルールの見直しも検討する。

送電線の増強には時間も費用もかかる。計画的な送電線の増強・整備を進める一方、既存の送電線を最大限活用すれば再エネの導入拡大を加速できる。燃料費のかからない再エネを優先することで電力コスト低減の効果も期待できる。同様に、市場を含む現行の諸制度が再エネ主力電源化に整合的なものとなっているかを改めて検証すべきだ。

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激甚化する気象災害や気候変動への危機感を背景に、世界的に脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速する。120を超える国・地域が50年までに二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロを目指す。日本でも50年にCO2排出実質ゼロを宣言する自治体は、7千万人を超える人口をカバーする150超の自治体に広がる。

温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の長期目標と整合的な目標を掲げる企業を認定する「Science Based Targets」(SBT=科学に基づく目標設定)には8月14日時点で、世界で954の企業が参加し、434社が認定を受けた。日本企業も74社が認定を受け、26社が策定を約束する。自社使用の電気を100%再エネにする「RE100」に参加する日本企業も37社に拡大した。

自社からの直接の排出量に加えてサプライチェーン(供給網)やバリューチェーンからの「スコープ3排出量」を削減する動きが世界で広がる。米マイクロソフトは1月、30年までにCO2を自社の排出量以上に削減する「カーボンネガティブ」の実現を目指すと発表した。25年までに自社の消費エネルギーをすべて再エネにするとともに、取引先がスコープ3排出量を含むCO2排出量を削減するよう促す新たな調達プロセスを21年7月までに始める。

7月には米アップルが、すべての事業、製品のサプライチェーンとライフサイクルからの排出量を30年までに実質ゼロにする目標を発表した。15年以降、取引先に再エネ100%での製品製造を促し支援する。既にイビデンなど日本企業6社を含む17カ国71社が誓約する。この誓約は約8ギガワットの再エネ導入に相当する。

RE100企業だけを見ても再エネ需要は今後さらに高まる見通しだ。そこには拡大する「約束された市場」がある(図参照)。こうしたニーズに対応して、北海道石狩市など、企業に再エネを供給できる立地であることを地域の魅力として打ち出す自治体も登場する。他方ブルームバーグNEFによると、再エネ利用、脱炭素化に注力する取引先のサプライチェーンを担う企業が、再エネが調達できないことで事業機会を失うリスクは、日本は米国に次いで2番目に高く、その額は730億ドルに達する。

感染症の影響下でも、金融市場がESG(環境、社会、ガバナンス=統治)の観点から企業を評価する動きは一層強まっている。世界的な脱炭素化が加速する中で、再エネ主力電源化の早期実現は、金融市場から見た日本企業の価値の向上に加え、取引先から見たサプライチェーンの担い手としての日本企業の競争力強化を支援するという点ですぐれて産業政策でもある。

再エネの主力電源化とそのためのインフラの増強・整備は、化石燃料の支払いで国富を海外に流出する代わりに、国内に新たな投資を喚起しビジネスと雇用を創出する。コロナ禍でダメージを受けた日本の経済社会の復興にとっても強力なけん引力となる。再エネ主力電源化に向けた施策の具体化と諸制度の再構築を今こそ加速する必要がある。


出典:日本経済新聞